損害保険登録鑑定人試験の過去問は、公式Webサイトで無料で入手することが出来ます。しかし、「なぜこの答えになるのか」が記載された”解説”までは載っていません。参考書などが販売されていないようなニッチな分野ですので、解説がないのは勉強する上で、非常に大きな障害だと考えています。
そこで、本稿では「保険・一般常識(2022年7月)」の解説を記載致します。
解説と言っても公式のものではありません。ここに掲載する以上、改めて調べるなど正確性を心がけておりますが、もし間違いなどございましたらご指摘頂けますと幸いです。
出題傾向
保険・一般常識の試験は、毎年大きく出題範囲は変わっていないように見えます。基本的には過去問を数年分、何度も解いて覚えることで得点を狙えるものですが、ここ最近は過去に出題されたことがないような問題もちらほら見られます。
ただ、出題されている問題や関連文が過去問にも登場していることが多いのも事実です。
例年出題されている「火災保険の計算問題」「地震保険の計算問題」「簿記」は極力落とさないようにしつつ、そうした問題を取りこぼさないように対策したいところです(個人的には、問1~5は問題文も短めで対策しやすい問題が多いと感じています)。
解説
問題1:物件の種類と判定
住宅物件のM・T・H構造、一般物件の耐火級別(1~3級)、工場物件・倉庫物件の判定…は頻出です。問題の文章も短いので、できるだけ多くの過去問を解き、インプットを多めにしておきたい問題です。
- M構造 → T構造
■M構造=マンション(Mansion)、T構造=耐火(タイカ)、H構造=非耐火(ヒタイカ)…と、構造名をイニシャルで覚えると分かりやすい
■M構造は耐火構造の共同住宅 - 住宅物件のみ → 一般物件も同じく判定する
- 設問の通り
- 工場物件 → 倉庫物件
- 設問の通り
- 1級 → 2級
■1級はコンクリート、レンガ、石、耐火被覆鉄骨、耐火建築物等 - 構造にかかわらず → M構造またはT構造の共同住宅を除く
■1年未満の場合は一般物件とする - 設問の通り
問題2:火災保険に関する計算問題
毎年出題されている火災保険の問題。ほとんどパターン化されているので、できるだけ正解したい問題です。
- (損害保険額)=(損害額)×(保険金額)÷(保険価額)÷0.8
代入して 2100万円×3000万円÷3500万円÷0.8=2250万円
限度額は(保険価額)>(保険金額)より2100万円
よって、支払われる損害保険額は 2100万円
<別解>
(保険金額)÷(保険価額)=0.857 より 80%以上の加入であるため、実損てん補(2100万円)となる。 - (残存物取片づけ費用保険金)=(損害保険額)×0.1
代入して 2100万円×0.1=210万円
実際に支払った残存物取片付け費用は250万円であるため、この保険で支払える残存物取片付け費用保険金は210万円。 - (失火見舞金)=(被害を受けた世帯数)×20万円
5世帯×20万円=100万円
限度額は、保険金額か保険価額の小さい方の20%=3000万円×0.2=600万円であるため、支払われる失火見舞金は100万円
計算方法の解説については、以下の記事で取り上げています。

問題3:店舗総合保険
- (保険金額)×30%=900万円
1000万円は店舗総合保険の限度額 - 畳や建具などは明記されていなくても自動的に対象に含まれる
- 生活用通貨=20万円、業務用通貨=30万円
- 床上浸水もしくはGLから45cmを超える浸水の場合は15%
問題4:地震保険に関する法律
- 30~50%
- 72時間以内の地震であれば包括して1つの地震とみなす。ただし、被災地域が全く重複しない場合は別の地震とする
- 125ccを上回る原動機付自転車や自動車は含まれない
- 地震保険のみの契約はできず、火災保険の契約とセットになるのであれば、保険期間の途中でも付帯することができる。ちなみに、地震保険は火災保険加入時に基本的には自動付帯となるが、本人の意志が確認されれば地震保険に加入しないこともできる。
問題5:地震保険の計算問題
この地震保険の支払いに関しても、毎年出ているパターン問題です。できるだけ落とさないようにしましょう。
- 建物の損害割合が50%を超えているため、全損となり、保険金額と同額が支払われる。
よって、1400万円 - 家財の損害割合が60%以上80%未満なので、大半損(60%払い)。
よって、地震保険の400万円×60%=240万円 - 主契約である火災保険から支払われる保険金は、(住宅総合保険の保険金額)×5%。
よって、(2800万円+800万円)×5%=180万円
問題6:損害保険の保険金支払いに関するガイドライン
この辺から問題の文章が長くなってきます。解説は丁寧に書くように心がけていますが、「○○に例外があれば説明する」「こういう場合は説明不要」等、ニュアンスを理解することで回答の負担は減らせると思います。
- 契約者等および被害者に通知する必要はない → 修理業者や医療機関等に直接支払う場合、自社支払査定額と請求額との間に差があり、契約者等及び被害者の保護のために必要があるときは、契約者等及び被害者に差があることを説明する
- その内容に沿って具体的な算定根拠を説明する必要はない → その内容に沿って説明するなど、問い合わせに応じて算定根拠を丁寧かつわかりやすく説明する。
- 設問の通り。
- 支払事由の立証責任が損害保険会社にある場合に限り → 立証責任が請求者・保険会社のいずれにあっても
問題7:新種保険
- 事業場内で稼働可能な状態にある機械、設備、装置などが対象となる。そのため、小型モーターから大規模プラントまでほとんどすべての機械類が含まれる。
- 機械設備や鋼構造物の組み立て据付工事等の工事中に保険の対象に生じた、不足かつ突発的な事故による損害を保証するもの。ちなみに、組立保険は、土木工事(→土木工事保険)や鋼構造を主体としない建築工事(→建築工事保険)、船舶にかかる工事、分解・解体・片付け工事は対象外となる。
- 含まれない → 含まれる
■仮設工事を含む工事の目的物、工事用材料、仮設材、現場事務所等の工事用仮設建物および商用される什器備品が対象となる。 - 賠償責任保険は、普通保険約款、特別約款、特約に大分される。特別約款は賠償責任の個別契約条件が規定され、特約は普通保険約款・特別約款を補う形になる。
- 運送中の危険のみを対象とする動産、加工・製造中の動産、自動車・船舶・航空機は対象に含まれない。
- 発注者に限られる → 発注者または受注者等の工事関係者
問題8:自動車保険の対物賠償保険
- ただし、業務として受託した場合の使用は対象外
- 地震や噴火、またはこれらによる津波を原因とするものは対象外
- 最も高い免責金額 → 最も低い免責金額
- 訴訟費用、仲裁、和解、調停に要した費用、またはその他権利の保全や行使に必要な手続きをするために要した費用が対象となる。
問題9:保険価額の評価
- 経年原価は初めの年ほど多く → 毎年一定額減少
■定額法=交換価値よりも使用価値に重点を置く、継続使用財に適する - 設問の通り
- 除いて → 加えて
- 設問の通り
問題10:損害保険契約
- 会場・航空・原子力などの保険契約、および企業・個人事業主等の事業活動に伴う危険を保証する損害保険契約には適応されない。
- 設問の通り
- 損害保険契約においては、店舗される被害を受けたもの=被保険者(被害者)
- 設問の通り
問題11:損害賠償に関する法律知識
- 特殊の不法行為については、加害者側が自らに故意または過失がないことを証明しなければならないものがある(挙証責任の転換)
- 設問の通り
- 占有者と所有者が逆。設置物の責任は占有者が負い、占有者が発生の防止をするために必要な証明した場合は所有者が責任を負う。
- 教唆 → 幇助
■教唆:他人をそそのかして第三者に損害を与えたり、他人を欺いて第三者の所有物を損傷させるような行為 - 設問の通り
- 失火責任法 → 民法第709条
■民法代709条:恋または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
■失火責任法:軽過失による失火の場合は免責されることがある - 必要がある → 必要はない
- 設問の通り
問題12:個人情報保護法
- 特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱っても良い場合が存在する。
■法令に基づく場合
■人の生命、身体、財産保護のために必要がある場合、かつ本人の同意を得ることが困難である場合
■国の期間もしくは地方公共団体、またはその委託を受けた者が法令の定める事務を遂行することに対して協力する必要がある場合で、本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼす恐れがあるとき 等
問題13:リスクマネジメント
- オペレーショナル・リスク → ビジネス・リスク
■オペレーショナル・リスク=企業の通常の業務遂行により発生する損失のリスク。火災や事故、賠償など。 - 設問の通り
- 結集可能 → 分散可能
- リスクの保有と移転が逆
■発生頻度:低、損害額:大 → リスクの移転
■発生頻度:高、損害額:小 → リスクの保有(経常費で処理) - 設問の通り
- 設問の通り
- PL法は、企業が製造した製品の欠陥によって発生するもの。施設の所有・管理、従業員によるものではない。
- 設問の通り
問題14:簿記
簿記の問題です。毎年出題されていますが、基本的には「売掛・買掛の仕分け」「当座預金・小切手の扱い」が軸になっているように感じます。
ちなみに、簿記は「借方」と「貸方」に取引を仕分けするものです。貸方と借方に記載される金額の合計は、必ず一致しなければなりません。
「借りる」とは、何かを借りることは自分の手元に入ってくることなので、「借方」は自分の手元にモノやお金が入ってくるイメージを持つと良いでしょう。貸方はその反対です。従って、「100円でガムを現金で買った」という取引は、「借方」に手に入った100円のガムを、「貸方」には手元から出ていった現金100円を記載します。こういった考えが基本になります。
「買掛金」とは、自分が相手から「買った」時に、代金を後払いにすること。要するに、相手に借金をすることになります。先程のガムの例で言えば、「100円のガムを買掛金で買った」となると、「借方」に100円のガム、「貸方」には「買掛金100円」(相手に100円借金した)を計上します。「売掛金」はこの逆で、相手に売るとき、相手が借金して買っていった場合の処理になります。
また、「小切手」とは取引において現金と同様の扱いを行うものになります。小切手は、金融機関に行けば現金に引き換えられるものです。そして、その現金は「当座預金」から支出されます。従って、手元に小切手が入ってきたら現金として扱い、相手に小切手で支払った場合は当座預金で処理します。
- 今回の場合、「買掛金を支払った=借金を払った」ということなので、「借方」には「買掛金」が計上されます。相手に預けてあった借金(=貸方)を、お金を払って自分の手元に戻した(=借方)イメージですね。
そして、A商店には「現金120,000円」を計上します。小切手で支払ったものは、当座預金で処理するため、B商店分として「当座預金260,000円」。貸方と借方は常に同額になるため、これらを足した金額380,000円が「借方」に「買掛金」として計上されます。 - 「未収金」とは、相手が商品を買っていったけど代金がまだ支払われていない状態=「売掛金」となります。この場合、相手の未収金から400,000円を小切手で受け取っているので、手元に現金400,000円(借方)入ってくることになります。しかし、そのまま当座預金に入れているので、この場合は借方に当座預金400,000円を計上します。
そして、相手の借金が減ったため、貸方には「売掛金」400,000円を計上します。 - 仕入れにかかる運賃は、商品代金の一部として取り扱います。この場合は、商品300,000円+運賃3,000円=商品300,000円が仕入れ=借方に計上されます。このように、商品仕入れに伴う経費を含めて考えることを「仕入諸掛」と言います(試験に出ないけど)。
そして、運賃は現金で払っているので「現金3,000円」で処理します。 - 買掛金の残高がいくら残っていようと、取引ごとに記録する簿記では関係ないです。よって、相手に預けてある買掛金を250,000円買い戻したイメージです。対価は現金250,000円。
まとめ
保険・一般常識の問題は、後半に行くに従って文章量が増えてきます。そのため、勉強するにも序盤の方がやりやすく、試験時間の配分を考えても後半のほうが時間がかかります。同時に、集中力もガリガリ削られていきます。体感的には、問題5の地震保険の計算問題を境に、文章量が増えるイメージがあります。
対策として、過去問を解く時にどれくらい時間がかかっているかを測ると良いと思います。ある程度、対策が出来ていれば簿記はサービス問題に近く感じられるようになるので、集中力がフレッシュな内に確実に得点が取れる問題を攻略してしまうのも手です。
計算問題や簿記など、解釈が入り込む余地がない問題を対策するだけで合格点に大きく近づけるので、こうした問題をいかに外さないかを意識しつつ、覚えやすい問1から順番に過去問対策すると良いのではないかと考えています。
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